Revitを最大限に効率よく使うためにはどのようなスペックのマシンが必要でしょうか?
本投稿では、BIM歴が5年以上の筆者がRevit用のマシンを選定するためのヒントをお届けしたいと思います。
想定読者
本投稿はRevitを利用するためにどのようなスペックを重視すればよいか悩んでいる方を対象としています。
Revitに限らず、一般的なBIM用途のマシンに悩んでいる場合は以下の記事の方をオススメします。
CPUについて
まずはCPUについて見ていきましょう。
CPUはRevitを利用する上で最も重要な部品といえます。
Autodeskの推奨スペック
まずはAutodeskが公表している推奨スペックを見ていきます。
シングルコアまたはマルチコアの Intel、Xeon、または i-Series の SSE2 テクノロジ対応のプロセッサ、またはこれらに相当する AMD プロセッサ。入手可能な最高速度の CPU を推奨します。
Autodesk Revit製品は、さまざまなタスクで複数のコアを使用します。
出典:Revit2021製品の動作環境(パフォーマンスモデル)
これだけ見ても具体的な数値は公表されていないため、判断に迷います。
ひとつだけ読み取れるのが、”入手可能な最高速度のCPUを推奨します“という文言です。
Revitフォーラムの意見
RevitフォーラムのCPUディスカッションは、2010年に投稿が始まり今でもなお議論が続いています。
フォーラムでは様々な議論が行われていますが、今回管理人が論点をいくつかピックアップしてみました。
- 重視したほうがよいスペックは?
- Xeonの方がいいの?
順を追って見ていきましょう。
重視した方がよいスペックは?
結論から言うと、Revitフォーラムの投稿で重視されるのは、やはりCPUクロックでした。
Almost all modern CPUs come with multiple cores in a single CPU. Each core is a little bit like it’s own CPU.
Generally the more cores, the better, especially for tasks such as rendering views.
However, Revit still uses only one core at a time for most tasks, so it’s important that no matter how many cores the CPU has, the speed when using a single cores should be very fast.最近のCPUはほとんどが1つのCPUに複数のコアを搭載しています。それぞれのコアは、それ自身がひとつのCPUのようなものです。
出典:Revitフォーラム(CPUディスカッション)
一般的には、特にビューのレンダリングなどのタスクではコア数が多い方が有利です。
しかし、Revitは依然として殆どのタスクで一度に1つのコアしか使わないので、CPUのコア数に関係なく、1つのコア速度が高速であることの方が重要です。
新しいCPUアーキテクチャで、かつ単純にクロック数の高いCPUを選定したほうがパフォーマンスが良いとのことでした。
Xeonじゃないといけないの?
XeonとはIntelのCPUのブランドです。
主にサーバ用途などに用いられ、ハイスペックで安定性が高いイメージがあります。
大抵のBIM用デスクトップワークステーションにはXeonが組み込まれていますが、本当にXeonが最適解なのでしょうか?
フォーラムにはこんな投稿がありました。
Sometimes the Xeon-based workstations offered by Dell, HP, etc., have a better build quality than their consumer-oriented products. Also, Xeon CPUs offer something called ECC RAM support which theoretically can offer greater stability for certain applications, but it’s not really applicable to your typical CAD workstation (i.e. ECC RAM is of little benefit to an application like Revit). These points sometimes get misunderstood as Xeon’s being more “reliable”, etc.
DellやHPなどが提供しているXeonベースのワークステーションは、コンシューマ向け製品よりも構築品質が良いことがあります。また、Xeon CPUはECC RAMサポートと呼ばれるものを提供しており、理論的には特定のアプリケーションに対してより高い安定性を提供することができますが、典型的なCADワークステーションにはあまり適用できません(つまり、ECC RAMはRevitのようなアプリケーションにはほとんどメリットがありません)。これらの点については、Xeonの方が「信頼性が高い」などと誤解されることがあります。
出典:Revitフォーラム(CPUディスカッション)
XeonはECC RAMサポート機能を搭載しているため、安定性・信頼性が高いのは事実ですが、その機能がそのままRevitに適用できるわけではないとのことです。
だとすれば、わざわざ高いXeonを選ばなくても、Core i7やRyzenを選んでおけば良さそうです。
単純に考えて、「Xeonの方がRevitに合っている」とするならば、Autodeskはもっとその事実をプッシュしているはずです。
まとめ
以下、CPUの選定についてのまとめです。
- なによりもシングルコアクロックを重視して選定すべき
- ビューのレンダリングにはマルチコアが利用されるが、大抵の演算はシングルコア演算で行われる
- ブランドはXeonだから良いという訳ではない
グラボについて
次はグラフィックボード(以下、引用文以外はGPUと表記)について見ていきましょう。
Autodeskの推奨スペック
Shader Model 5 搭載の DirectX11 対応グラフィックス カードおよび 4 GB 以上のビデオ メモリ
出典:Revit2021製品の動作環境(パフォーマンスモデル)
CPUよりは具体的に書かれていますが、いまいち情報が足りない気がします。
Autodeskの認定グラフィックスハードウェア
上述したRevitの推奨スペックとは別に、Autodeskは認定グラフィックスハードウェアというものを公開しています。
認定グラフィックスハードウェアの定義は以下のとおりです。
このページに記載されているカード/ドライバは、カード ベンダーまたは製品チームによってテスト済みで、結果はオートデスク製品チームによって確認されています。テストでは、当該ハードウェアが当社製品の機能をサポートしているかどうかを検証しています。リストに記載されていないカードやドライバでも製品で使用できる場合がありますが、オートデスクではまだテスト結果を受領していないか、または検証が完了していません。
出典:認定グラフィックスハードウェア
これは要するに、GPUがRevitに対応していることを示しているだけです。サクサク動くことを保証されているわけではありません。
オンボードGPUであるIntel(R) UHD Graphics P630が、Revit2020の認定グラフィックスにカテゴライズされていることからも、そのことが読み取れます。
認定グラフィックスと認定外のグラフィックス
上記認定グラフィックスには主に以下のブランドが掲載されています。
- NVIDIA Quadro
- AMD Radeon Pro
- AMD FirePro
これらは揃いも揃って、いわゆる業務用GPUです。
業務用GPUの対義語として、いわゆるゲーム用GPUという概念もありますが、それらブランドは認定グラフィックスに掲載されておりません。
ここまでの違いや、追加の情報を表にまとめてみました。
業務用GPU | ゲーム用GPU | |
---|---|---|
得意なAPI | OpenGL | DirectX |
値段 | 高い傾向 | 安い傾向 |
具体的なブランド | NVIDIA Quadro AMD Radeon Pro AMD FirePro | NVIDIA GeForce AMD Radeon |
認定グラフィックス | 認定されている | 認定されていない |
要するに、Autodeskとしては業務用GPUを使ってくれていたらRevitでの動作は保証すると言っているわけです。
しかし、同程度の性能の業務用GPUとゲーム用GPUとを比べた場合、ゲーム用GPUの方が安い場合が殆どです。
そこで頭に思い浮かんでくるのは、ゲーム用GPUだと問題があるのか、という疑問です。
Revitフォーラムの意見
ゲーム用GPUがRevitに適しているかどうかは、Revitフォーラムでも度々議論の的になっています。いくつかピックアップしてみていきましょう。
Q: Autodeskや販売代理店、無名のCAD専門家は、「Revitでは “業務用のビデオカードだけを使うべきだ」と言っています。
しかし、ここ(Revitフォーラム)では多くの人が Revit 用の “ゲーミング” カードを使用し、推奨していることを読みました。誰が正しいのでしょうか?”
A: 何を言われても、コンシューマー(ゲーミング)ビデオカードは業務用のビデオカードと同じようにRevitでも動作します。Q: それにしても、それ以上に何かあるはずだ!業務用のビデオカードのコストはかなり高い。何か良いものがあるに違いないのでは?
A: 技術的に全く違わないわけではありませんが、「より良い」というのは解釈の余地があります。公式には、オートデスクは業務用ビデオカードのみを「サポート」しています。
簡単に言えば、ビデオカードのメーカーが特定のバージョンのRevit (およびその他の特定の CAD アプリ)で動作するように特定のドライバ (業務用ビデオカード用) を「検証済」であるということです。検証されたバージョンのRevitで、検証されたドライバでサポートされているカードを使用している場合、互換性の問題が発生しないことを確信することができます。その保証のためにお金を払っているのです。“Autodesk/my reseller/unnamed CAD expert says I should only use “Professional” (workstation/CAD) cards with Revit. But then I read here that lots of people use and recommend “Gaming” cards for Revit. Who is right?”
Despite what you may have been told, consumer (gaming) video cards can work just as well with Revit as professional video cards.“Come on, there’s got to be more to it than that! Those “Pro” cards cost way more – they must be better in some way?”
出典:認定グラフィックスハードウェア
Yes, there is more to it than that, though “better” is open to interpretation. Officially, Autodesk only “supports” professional video cards.
In very simplistic terms, what that means is that Nvidia/AMD “validate” specific drivers (for their Pro cards) to work with specific versions of Revit (and other specific CAD apps). If you’re using a supported card with a validated driver with the version of Revit that it’s been validated for, you can be very confident that you’re not going to have compatibility problems. You are paying for that assurance.
業務用GPUを高いコストをかけて買わなければいけない理由は安心料だと言われていました。
というわけで、無難なGPUを調達したい場合であれば、業務用GPUを選定すべきなのでしょう。RevitがGPUに適合しないことは在り得ません。
しかし、コストを抑えたい場合には、ゲーム用GPUも選択肢に入れても構いません。
ただし、RevitがGPUに適合しない可能性もありますし、ある程度の技術的な用語を分かっていないと手を出してはいけません。
GPUのまとめ
以下のようなケースでは、業務用GPUを選定すべきでしょう。
- 会社として標準的に導入するマシン構成を選ぶ場合
- コンピュータのハードウェアに詳しくない人の場合
しかし、以下のようなケースでは、状況に応じてゲーム用GPUを選定してもよいかもしれません。
- GPUがRevitに適合していない可能性があるが、コストを抑えたい場合
- Revit以外にゲーム用GPUを必要とするソフトを利用する場合
メモリやストレージ
あとはメモリやストレージを選定しなければいけませんが、あまり議論することはありません。
メモリは素直に16GB以上あればよいでしょう。
メモリ使用量をウォッチしてもらえればすぐに分かりますが、モデル編集時に10~20ギガバイトもメモリを喰うことは中々ありません。
ストレージは512GB以上のSSDがあれば、まったく問題ないでしょう。
上手く使えば256GBでもいけないことは無いと思いますが、Revit以外にもアプリケーションをインストールしまくる使い方の方だとキツいかもしれません。
【参考】高取氏のスペック
Revitの玄人、元大成建設の高取氏が、2019年に購入したマシンスペックをブログで公開されていましたので紹介します。
CPU : AMD Ryzen9 3900X
メモリ : 32GB DDR4 SDRAM
グラフィックカード : nVidia GeForce RTX2070 SUPER 8GB
ストレージ : 1TB Gen4 NVMe SSD / 3TB HDD
出典:RevitPeeler Revitに最適なPCは?2019
おおよそ、このブログで紹介してきた内容に準拠した構成を選んでいました。
メモリやストレージには奮発していますが、この辺りは好みでしょう。
氏の方針としては、細かいことは気にせずにCPUのシングルコア性能を重視せよと述べていました。
HPなどのメーカーの「BIM/CAD用のワークステーション」を買おうとすると、構成がある程度固定化されている場合が多いですが、それを避けるために高取氏はBTOのものを選んでいましたね。
ある程度自分でスペックのバランスを見ながらパーツを選定できる人であれば、BTOは良い選択であると言えます。
全体のまとめ
Revitがサクサク動くマシンスペック考察でした。
いかがだったでしょうか。
個人・組織にはこれまでのBIM / Revitノウハウが蓄積されているはずなので、BIM用のマシンはこうでないといけない、Revitのマシンはこうでないといけないというものが、それぞれにあると思います。
それを、この機会に見直してみてはいかがでしょうか。
- その構成は、Autodesk社の認定ハードウェア情報に準拠していますか?
それとも、理解したうえでわざと認定外のものを選んでいますか? - PCメーカーのラインナップの都合に振り回されていませんか?
- 事実、感想、思い込みをごちゃ混ぜにしていませんか?
そのほか、大きな会社の場合は、調達部署・管理部署の都合も混ざってくることがあるかもしれません。
このあたり、きちんと切り分けてマシンを選ぶことで、より豊かなRevitライフを送ることが出来るでしょう。また、今後の気づきにも繋がるでしょう。
考えも無しにメーカーや販売代理店の構成マシンを買ってしまったり、根拠のないスペックアップ(によるコストアップ)をしてしまうと、PCメーカーの思う壺です。
たまには一次情報に当たってみたり、情報量の多い英語のフォーラムを読んでみたりして、たくさんの情報に触れることで見えてくる何かもあると思います。
以上です。
また、気づきがあれば追記していこうと思います。
コメント